休職中のうつ病・適応障害に役立つ行動活性化|脳科学でわかる3つの仕組み

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奈良県作業療法学会で学んだ「行動活性化」の力

2025年9月7日(日)、奈良県作業療法学会でシンポジストとして登壇しました。テーマは「フリーランスという選択肢~組織に属さない専門職~」。日々の実践を報告させていただきましたが、医療系の国家資格を持つ専門職がフリーランスとして働く例は、まだまだ少ないのが現状です。

学会では、認知行動療法の一つである行動活性化について、その脳科学的な根拠を学ぶ機会もありました。行動活性化は、うつ病の回復に役立つ心理療法の一つとして注目されています。私自身も最新の研究を調べてみたところ、ちょうど良い論文が見つかりましたので、今回はその内容をシェアしたいと思います。

この記事でわかること

  • 行動活性化とは何か:うつ病の悪循環を断ち切る心理療法の基本
  • 脳科学的な根拠:報酬系・前頭前野・デフォルトモードネットワークの3つの視点から解説
  • 最新の研究紹介:行動活性化が脳に与える変化を示した無料で読める論文を紹介
  • 日常への活かし方:小さな行動がどのように気分を変えていくのか

行動活性化とは?うつの悪循環を断ち切る心理療法

うつ症状が強いときは、「気分が滅入る」「落ち込んでいて動けない」と感じやすいのですが、日は「行動しないこと」がさらに気分を落ち込ませる悪循環につながると言われています。もちろん、休職をしたばかりのころ、うつ症状が強く表れているときは、何もせずに寝てばかりの過ごし方で良いのですが、体のしんどさが回復してきた後は、小さくても良いので何か行動をすることが、回復のきっかけをつくるとも考えられます。

行動活性化の脳科学的な根拠|3つの視点

最近の研究(Jungら, 2024)では、行動活性化(BA)が脳にどんな変化をもたらすのかが少しずつ明らかになってきています。ここでは、その中でも特に大切な3つのポイントをご紹介します。

1.脳の報酬系が働き「やる気スイッチ」が入る

私たちの脳には「報酬系」と呼ばれる回路があります。これは「がんばったらご褒美がもらえる」「やってみたら楽しかった」という体験をするときに働く仕組みで、側坐核(そくざかく)や前頭前野といった脳の部位が中心的な役割を果たします。

うつ状態だと、この報酬系がうまく働かなくなり、「どうせできない」「やってもむだ」といったネガティブに感じやすくなると言われています。そのために、健康度が高いときよりも行動することが減ってしまい、さらに報酬が得られなくなる、という悪循環に陥ってしまいます。

行動活性化はこの悪循環を断ち切る方法です。

たとえば「5分だけ散歩をする」「洗い物をひとつ片付ける」といった小さな行動でも「できた!」「思っていたより進んだ」という達成感が脳の報酬系を刺激します。これが積み重なることで、再び「やる気スイッチ」が入りやすくなります。

研究では、行動活性化を受けた人の脳で報酬処理に関わる部位が活性化することが確認されており、「喜びを感じにくい状態(快楽減退)」が改善するメカニズムの一つと考えられています。

2.前頭前野が整い、考えを切り替えやすくなる

前頭前野は、計画を立てたり気持ちを切り替えたりする「脳の司令塔」のような部分です。うつ症状が強いときは、この領域がうまく働かなくて、頭の中で同じ考えがぐるぐるしがちになります。

研究によると、行動活性化の実践によって、前頭前野の活動が変化し「悲しい状況の中でも、考えをコントロールしやすくなる」ことが示されています。つまり、「やらなきゃいけないのに動けない」という状態から、少しずつ気持ちを切り替えて動ける状態に近づけます。

3.「悩みのループ」をつくるネットワークが鎮まる

うつ症状の大きな特徴のひとつに、「同じことを繰り返し考えてしまう(反すう)」があります。これは脳のデフォルトモードネットワークというネットワークが過剰に働くことと関係していると言われています。行動活性化を続けると、このデフォルトモードネットワークの結びつきが弱まり、悩み思考のループが鎮まりやすくなることが報告されています。その結果、「過去の失敗ばかり考える」状態から少しずつ抜け出しやすくなるそうです。

実際に行動活性化をやってみた!

私もさっそく、日常の中で小さな行動を取り入れてみました(ささやかなことですが)。

自宅で仕事をしていると、なんとなくやる気がでなくって、午前中をずっとスマホを見て過ごす…という日がありました。頭では「やらなきゃな」と思うのですが、体が動かず。締め切りの日までにスライドを作成しないといけないのに、気分が上がらなかったのです。そのときにふと「行動活性化」という言葉がよぎり、「まずは洗面所に行って顔を洗い直そう」と思いました。顔を洗ってタオルで拭くと、少しすっきりして、そのまま机に向かってPCの電源を入れることができ、気づけば作業を進められていました。作業が進むと気分も良くなり、予定していたペースを取り戻すことができました。

こんな感じで、小さな行動がきっかけになって気分や行動が変わるのを実感しました!

行動活性化の考え方は「気分が良くなったから動こう」ではなく、「動いてみることで気分が変わる」です。

休職中で気分が落ち込みやすいときも、まずは「顔を洗う」「お茶を入れる」「窓を開ける」といった、ほんの小さな行動から始めてみると良いですね。その積み重ねが、脳の変化や気分の回復につながりそうです。

まとめ

行動活性化は「気分が良くなったら動く」ではなく、「小さく動くから脳も気分も変わっていく」という方法です。

  • 報酬系が刺激され、やる気が戻りやすくなる
  • 前頭前野が整い、考えを切り替えやすくなる
  • デフォルトモードネットワークが鎮まり、悩みのループから抜け出しやすくなる

こうした脳の変化が少しずつ積み重なることで、気分の回復が促されるのです。

さらに詳しく知りたい方は、こちらの論文(英語・無料で全文公開)を御覧ください → Behavioral Activation and Brain Network Changes in Depression (PMC11220350)

この記事を書いた人

この記事を書いた人
辻本智美(公認心理師・作業療法士・精神保健福祉士)
精神科で20年以上勤務し、うつ病や適応障害などメンタル不調を抱える方の復職支援に携わってきました。
現在は、オンラインでのリワークプログラムやストレスケア講座を通じて、
「働く人が自分らしく回復し、安心して仕事に戻れる社会」を目指しています。

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