秋から冬に気分が落ち込むのはなぜ?|冬のうつの対策

朝晩が冷え込み、少しずつ日が暮れるのが早くなる秋が訪れると、「なんとなくやる気がでない」「ふと不安になる」と感じる人も増えてきます。

秋のもの悲しさは、開放的な夏と比べると落ち着きを取り戻せたような気もして悪くないものですが、あまり気分が落ち込みすぎると、メンタル不調を引き起こすことにもつながるかもしれませんので、気を付けたいところですね。

季節の変化に合わせて気分が落ち込む症状を「季節性情動障がい(Seasonal Affective Disorder:SAD)」と言います。「冬のうつ」と呼ばれることもあるので、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、なんとなくもの悲しい気分が、「冬のうつ」につながらないように、普段の生活で気をつけたいことをお伝えします。

※本記事は、カナダ・ケベック州のラヴァル大学研究チームによる「When a season means depression」(Gagnéら, 2010)を参考にしています。PMID: 20132779

目次

日照時間の変化が、こころに与える影響

冬のうつは、秋から冬にかけて日照時間が短くなる季節に発症し、春から夏にかけて自然に症状が軽くなるのが特徴です(夏のうつもあります)。

北米では、人口の約2~3%の人が、冬のうつに該当するとも言われていて、日照時間が短い地域では、さらに割合が高くなるそうです。

例えば、アラスカでは約10%の人が、冬のうつの影響を受けているとも言われています。このうつには、状態が軽いタイプもあるそうで、なんと、人口の約18%もの人が、冬のうつに当てはまる可能性もあるそうです。

光が足りないと、なぜ気分が落ち込むのか?

日照時間が短くなると、気分が落ち込みやすくなるようですが、そのメカニズムはまだはっきりとはわかっていないそうですが、現時点では、以下の3つのホルモンが関係しているのと考えられています。

メラトニン(体内時計と睡眠リズムの司令塔)

メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれるもので、夜になると分泌されるホルモンです。

動物では、夏よりも冬の方が、メラトニンの分泌が長く続くそうで、冬になると眠くてなかなか起きられないのは、メラトニンの分泌が続くせいかもしれませんね。

冬のうつの患者さんは、冬のうつではない人に比べると、26分も長くメラトニンが作られていることがわかったそうです。このことから、冬にメラトニンが長く分泌されることで、うつ症状を誘発するという仮説もあります。

一方で、冬のうつの患者さんの中にも、メラトニンの分泌が正常な人もいるそうなので、メラトニンを減らせば、冬のうつが治る、という単純な話でもないようです。

セロトニン(幸せホルモン)

セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれるもので、冬のうつに関係していると言われています。

セロトニンは、曇っている日よりも晴れている日の方が、たくさん分泌されていることがわかっています。つまり、日光の量がセロトニンの分泌にかかわっているということです。このことから、秋や冬のように、日照時間が減ると、セロトニンが少なくなって冬のうつになりやすくなります。

「光療法」という、午前中に強い光を浴びる治療法があるのですが、この光療法を行うと、セロトニン不足による、気分の落ち込みを防ぐことができるという研究もあります。

セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から作られています。トリプトファンが不足すると気分が落ち込みやすくなるとも言われています。だからといって、サプリなどでトリプトファンだけを摂取するといったことを推奨されているわけではなく、普段食べているような、栄養バランスの良い食事を心がけるのが良いそうです。

冬のうつの特徴は?

冬のうつの特徴としては、やる気がでない、寝すぎ、食べ過ぎ、炭水化物を欲する、引きこもるといったものがあります。まるで、冬眠状態ですね。

体のエネルギーを節約しようとする、自然な状態なのでは、とも思ったりはしますが、冬の気分の落ち込みをやわらげるために、毎日の小さな習慣が大切です。

冬のうつを予防するための「生活習慣」

冬のうつを予防するためには、特別な取り組みが必要なわけではありません。ご紹介するのは、ごくありふれた生活習慣。「わかっているけど、できない…」ということも多いのですが、少しでも意識することが大切です。

①朝の光を浴びる

朝日を浴びることで、眠りのホルモン「メラトニン」の分泌が止まり、気分を安定させる「セロトニン」が活性化します。

②軽いストレッチや外出で気分転換

血流がよくなり、体温とともに気持ちも上向きます。行動活性化にもつながりますね。

行動活性化については、こちらを読んでください。

③寝る前のスマホ時間を減らす

ブルーライトは脳を刺激し、メラトニンの分泌を妨げます。眠る前は照明を落とし、心を休めましょう。

④バランスのよい食事を心がける

特に炭水化物やたんぱく質を適度にとり、脳内のセロトニンを作る材料を補います。

完璧を目指す必要はありません。できることから、少しずつ取り入れてみてくださいね。

この記事を書いた人

この記事を書いた人
辻本智美(公認心理師・作業療法士・精神保健福祉士)
精神科で20年以上勤務し、うつ病や適応障害などメンタル不調を抱える方の復職支援に携わってきました。
現在は、オンラインでのリワークプログラムやストレスケア講座を通じて、
「働く人が自分らしく回復し、安心して仕事に戻れる社会」を目指しています。

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