復職準備、何から始める?リワークの専門家が教える3つのステップ
うつや適応障害で休職していると、「そろそろ復職しなきゃ」と思いながらも、何から手をつければいいのかわからず、不安になることはありませんか?
職場に戻ることを考えるだけで、心臓がドキドキしたり、
「また同じようにうまくいかなかったらどうしよう」と思ってしまう──。
そんな気持ちは、決してあなただけではありません。
私はこれまで精神科医療の現場で20年以上勤務し、うつ病や適応障害の方々の復職支援に携わってきました。
その中で感じるのは、スムーズに復職できる方ほど、休職中に“準備の時間”を上手に使っているということです。
焦って早く戻るよりも、心と体を整えて“自然に働ける状態”を取り戻すことが、
再休職を防ぎ、長く働き続けるためのいちばんの近道になります。
この記事では、臨床現場での経験と心理学的な知見をもとに、復職準備で大切な3つのステップを専門家の立場からわかりやすく紹介します。
無理のないペースで、今日からできるところから始めてみましょう。
注意!:まずは「休むこと」から始めましょう
休職して間もない頃は、何も手につかない日が続くかもしれません。
寝ても寝ても起きられない…。
そんな日々に焦りや罪悪感を感じる方も少なくありません。
でも、それは「怠けている」わけではなく、「甘えている」わけでもなく、心と体の回復に必要な時間です。
うつ病や適応障害の初期は、心身のエネルギーがほとんど残っていません。
たとえるなら、スマートフォンのバッテリーが0%の状態。
まずは「充電」に集中する時間が必要です。
この時期に大切なのは、「回復の土台を整える」ことを自分に許すことです。
何もできない日も、休むことが“前に進んでいる”と考えてみてください。
安心して眠る・食べる・横になる。
それだけでも、少しずつエネルギーは戻っていきます。
数週間から数か月のうちに、
「前より起きられる日が増えてきた」「午前中に少し活動してみようかな」と思える日がやってきます。
この時期になってから、復職準備のステップに進みます。
「生活リズムを整える」ことを意識していきましょう。
回復には段階があります。
まずは休むこと、次に生活を整えること、そして少しずつ働く準備をしていくこと。
どの段階も、回復のプロセスに欠かせない大切な一歩です。
ステップ1:生活リズムを整える
復職準備の第一歩は、「朝起きて、夜眠る」という生活リズムの回復です。
休職中はどうしても夜更かししたり、昼夜逆転になったりしがちです。
用事がないと、朝起きなくなってしまいますよね。
けれども、リズムが乱れたままだと体内時計がずれて睡眠の質が落ち、
疲れが抜けにくくなります。結果として、気分の波も不安定になりやすいのです。
生活リズムを整えるための第一歩は、「起きる時間を一定にすること」。
眠れない夜が続いても、朝は同じ時間にカーテンを開けて太陽の光を浴びてみてください。体内時計は光によってリセットされます。
次に、「朝の活動」を5分だけでも始めてみましょう。
洗濯物を干す、植物に水をあげる、散歩を1曲分だけする──。
短い時間でも“朝に体を動かす”ことが、復職に向けたリハビリの第一歩です。
また、食事の時間を意識して整えることも大切です。
「3食きっちり取らなければ」と完璧を目指す必要はありません。
お腹が空いたら何か口にする程度でも構いません。
そうした“小さなリズム”を意識するだけで、「自分のペースを取り戻している」という実感につながります。
完璧を目指すより、「できることが少しずつ増えてきた」と感じられることが大切です。
それが、心と体が整いはじめている証拠です。
ステップ③:仕事に向けた練習を少しずつ始める
生活リズムが整い、気持ちの波も落ち着いてきたら、少しずつ「働く感覚」を取り戻していく段階に入ります。
この時期は、体調が安定している日もあれば、疲れやすい日もある時期です。
まだまだ焦らず、自分のペースで進めていきましょうね。
最初のステップは、決まった時間に「何かを始めてみる」ことです。
午前中の決まった時間に机に向かってみる、30分だけ資料を読む…
短い時間でも構いません。
「時間を区切って行動する」ことが、少しずつ働くリズムを思い出す練習になります。
次に、自宅でできる範囲で「仕事に近いこと」を試してみましょう。
たとえば、メールの下書きを作ってみる、過去のメモを整理する、
自分の得意な分野に関するニュースを調べてみるとか。
大切なのは、完璧にこなすことではなく、
「自分はどんな作業が得意で、どのくらいの時間なら集中できるか」を確かめることです。
それが“仕事の感覚”を取り戻す第一歩になります。
行動を始めると、「昨日はできたのに今日は集中できない」と感じることが出てくるかもしれません。
でも、それは自然なことだから大丈夫。
回復の途中では、波があるものです。うつ症状の回復は、三寒四温ともいわれます。少し良くなっては、またぶり返す、そんな風にして少しずつ体調が良くなると言われています。
できない日があっても、それは「休む練習をしている日」だと考えてみましょう。
焦らずに、できる日を少しずつ増やしていけば十分です。
この時期は、主治医やカウンセラー、会社の人事担当者など、まわりの人たちと相談しながら進めていくことも大切です。
最近できるようになったこと、まだ不安が残ることを共有することで、復職のタイミングや勤務形態を無理なく調整しやすくなりますよね。
また、調子が落ち込む日や疲れが強い日は、一人で抱え込まずに早めに相談しておくことが、再発を防ぐポイントです。
復職準備の最終段階では、「どこまで働けるか」よりも、「疲れたときに休む判断ができるか」が大切なことも。
働く練習を通して、体調や気持ちの波を感じ取る感覚を少しずつ取り戻していきましょう。
無理のないペースで、「働くリズム」「休むタイミング」「頼れる関係」を整えていくことが、長く安心して働き続けるための鍵になります。
働く練習の目的は、仕事に完全に戻ることではありません。
「自分のペースを取り戻すこと」「疲れたときに休める力をつけること」。
それが、再発を防ぎながら安心して働き続けるための、本当の準備です。